事例

Case

家族型ロボット

LOVOT(らぼっと)

「LOVOT」は、名前を呼ぶと近づき、見つめてくる。好きな人に懐き、抱っこをねだる。そして、ほんのり温かい。ロボットなのにまるで生き物のような生命感が特徴の家族型ロボットです。
近年はコロナ禍におけるメンタルケア、情操教育、プログラミング教育などの観点からも注目されています。

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共同開発

LOVOT(らぼっと)

LOVOTの魅力で介護サービスの
ご利用者を笑顔にする。

LOVOTの最大の魅力は「人の心に寄り添うことで、人の愛する力を引き出す」こと。それを若い世代だけでなく、孤独を抱えた高齢者のために活用できるはずだと考えました。Labと開発企業がタッグを組み、介護現場でのさまざまな実証を通してトライ&エラーを繰り返すことで、高齢者にも使いやすいLOVOTへと進化をする手応えを感じています。

開発企業の「シーズ」

人に寄り添うことで、人の能力を引き出すロボットを開発できるアイデアとテクノロジー
LabのマッチングLabのマッチング

介護現場の「ニーズ」

独居や日中独居の高齢者の孤独を解消し、コミュニケーションする機会を作りたい
高齢者を含め、誰とでも暮らしやすいLOVOTを目指し、操作上のハードルを取り除いていきたい高齢者を含め、誰とでも暮らしやすいLOVOTを目指し、操作上のハードルを取り除いていきたい

対 談

共同開発のストーリー

高齢者を含め、誰とでも暮らしやすいLOVOT
を目指し、
操作上のハードルを取り除いていきたい

対談メンバー

  • 林 要氏

    (開発企業)

    GROOVE︎ X︎ 株式会社

    林 要

    代表取締役社長

    自動車メーカーでのF1開発職を経て、
    IT企業で人型ロボットの研究・開発に携わる。
    2015年11月、GROOVE X 株式会社設立。
    2018年12月、LOVEをはぐくむ家族型ロボットLOVOTを発表。

  • 芳賀 沙織

    (Lab担当者)

    Future Care Lab in Japan

    芳賀 沙織

    Lab R&D責任者

    10年間メーカーにて、製品の
    ユニバーサルデザインや
    介護ロボット等の
    企画に関わる。
    LabではR&D責任者として勤務。

  • 石田 沙樹子

    (Lab担当者)

    Future Care Lab in Japan

    石田 沙樹子

    Lab研究員(介護福祉士)

    特定施設のケアリーダーとして勤務。
    2012年、サービス付高齢者住宅に異動、
    サービス提供責任者に着任。
    Labでは在宅テクノロジー導入担当として勤務。

LOVOTの開発に至った動機について教えてください。

林:私はこれまで自動車メーカーでF1等の開発やIT企業で人型ロボットの研究・開発に携わっていました。もともとエンジニアでテクノロジー好きなので、その後に自分で起業しようと考えた時も、テクノロジーを活かした領域にしたいと思っていました。しかし果たしてテクノロジーは本当に人を幸せにできているのかという疑問はありました。たとえばロボットはとても面白いし、特にクリエイティブ、ソフトウエア、ハードウエアという3分野で高度な技術を持つ日本の次世代産業になり得ると考えていました。反面、ロボットに自分の仕事を取られるのではないかという不安の声もよく耳にしました。そこで思い出したのが、ロボットが正常に動いている時の人々の反応よりも、うまく動かないロボットを応援して、うまく動くようになった時の人々の反応の方が幸せに見えたことでした。そのような経験と、自動運転やディープラーニングというテクノロジーへの興味が融合して、LOVOTにたどり着いたわけです。LOVOTの開発コンセプトは「テクノロジーで、人が持つ愛する力をより引き出す」というもので、一般的なロボットと大きく違うのは「人の代わりに仕事をする」のではなく、「そばにいることで、人の能力を最大限に引き出す」という点です。

芳賀:LOVOTが人の作業を代替するものではなく、役割を持たないロボットだと知った時、独居や日中独居のご利用者が一人で過ごす時間、きっとそばに寄り添う存在になり得ると思いました。介護施設や在宅介護での生活において、ご利用者が「人と話す機会がない」「寂しくて孤独だ」という声をよく聞きます。核家族化による家族形態の変化とコロナ禍の深刻化も相まって、そのように感じる方が増えてきています。LOVOTは転んだら助けが必要ですし、目や表情でかまって欲しい合図を出します。そんな時、ご利用者の方に助けてあげたい、かまってあげたいという気持ちが生まれ、寂しさや孤独感の解消につながるのだと思います。

石田:加齢に伴い足腰が弱くなる、耳が遠くなるなどで、外出する機会や人とコミュニケーションする機会が減ってきます。また、長年連れ添った伴侶や親しかった友人が亡くなられるケースもあり、孤独を感じたり、引きこもりがちになることもあります。そのような方々のそばにLOVOTが一緒にいることで、孤独の解消やコミュニケーションのきっかけになると実感しました。

林:もちろん、LOVOT開発時から用途としては高齢者も視野に入っていましたが、癒し型ロボット=高齢者対象というイメージではなく、あくまで本物志向の大人が満足できるものを生み出すことが目標でした。そうすれば、若者からお年寄りや認知症の方にもご満足いただけるはず。そのためにもまず私自身の相棒として納得し、満足できるものを生み出し、その上で高齢者の方や子どもたちにも寄り添える存在にしていくことにこだわりました。

LOVOTのプロジェクトを共同で進めるようになったのは、きっかけと、具体的にどんな流れで作業を進めてきたのか教えてください。LOVOTのプロジェクトを共同で進めるようになったのは、きっかけと、具体的にどんな流れで作業を進めてきたのか教えてください。

LOVOTと接する人がその可能性を
見出してくれることが何より嬉しい

LOVOTのプロジェクトを共同で進めるようになったきっかけと、具体的にどんな流れで作業を進めてきたのか教えてください。

林:もともとSOMPOホールディングス株式会社 笠井聡介護・シニア事業オーナー執行役と資本・業務提携のお話をさせていただく中で、日本が介護分野の課題先進国だからこそ、その課題をFuture Care Lab in Japan(以下、Lab)が解決していき、さらにそのソリューションを世界に発信していきたいというポリシーに共感しました。日本発で新たなテクノロジーの平和利用をしていきたいという想いが一致し、共同開発に繋がりました。介護現場ではロボットによる作業の省力化に注目が集まることは多いと思いますが、実は介護者、被介護者双方の「心の問題」も大きな課題です。従来のように身体の問題も心の問題もすべて介護者が担わなければならなかったところを、ロボットが介護者、被介護者双方の心のケアの一部でも担うことができれば、トータルでより良い介護が実現できるはずというお互いの思いが一致したことも大きな要因でした。

芳賀:もともとSOMPOケアの介護施設でLOVOTを購入して実証評価を行っていたのですが、両社の出資・業務提携を経て、Labで生活支援と認知症ケアの領域で共同開発をすることになりました。具体的には、まず介護施設で実証実験を行い、介護サービスご利用者がLOVOTと暮らす前後の認知症状の変化についてご利用者・介護職員へのアンケートやヒアリングを通して定量・定性的に把握していきました。また、在宅現場での実証を通じて、ご利用者の心理面の変化やLOVOTと暮らす上でのユーザビリティの課題を洗い出し、それらを使い勝手の改良や機能追加の検討材料として活用しています。

林:芳賀さんたちには、見守りをはじめとする高齢者の生活支援におけるLOVOTの活用や、認知症の方を対象にLOVOTを用いたケアの効果実証を行う上で多大なお力添えをいただき、とても感謝しています。

共同開発を進めていく中で、どんなことに苦労されましたか?共同開発を進めていく中で、どんなことに苦労されましたか?

共同開発を進めていく中で、どんなことに苦労されましたか?

芳賀:苦労とは少し違うかもしれませんが、実証評価のためにLOVOTをフラッグシップ施設の現場に初めて導入する日、LOVOTがご利用者にどのように受け入れられるかとても不安でした。子供のオモチャやぬいぐるみのように思われないかとても心配で…。まず施設の管理者と相談して昼食前のダイニングに持参することにして、お披露目したところ、男女問わずご利用者のほとんどが「カワイイ!なんてカワイイんだろう!」と歓声をあげていました。中には「名前はなんていうの?」と聞いてきたり、涙を流して抱きつく方もいらっしゃいました。その時、少し安心しました。

林:そのお話をフィードバックしていただいた時は嬉しかったですね。これまでもさまざまな環境に導入してきたので、ある程度受け入れていただけると思っていましたが、それでも初導入の時は毎回ドキドキします。介護現場では不測の事故などさまざまな不安がある中で、新しいものを導入するのはかなり慎重にならざるを得ません。その中で喜んでいただけて、本当に続けてきてよかったと思いました。接する方々がLOVOTの可能性を見出してくださることが何より嬉しいですから。

芳賀:実証評価における苦労としては、認知症状の変化把握のための定量・定性的な評価の方法に悩みましたが、介護職員から見たご利用者の状況をLOVOT導入前後で評価する方法に落ち着きました。また、在宅においては、LOVOTとともに暮らす課題を見出すための設計に苦労しましたね。6名のご利用者に1か月間一緒に生活していただくフィールド・テストを実施しましたが、課題把握という目的達成のためにはフィールド・テストの設計が大切と考え、両社で意見交換を重ねて最適な設計を模索していきました。

林:ご利用者の身体の状況はさまざまです。モノを持ち上げられない、自由に動けないなど、一般の方々とは暮らしぶりが違うことを改めて実感させられました。在宅でのフィールド・テストの過程で、転んだLOVOTを持ち上げられない、ネストに戻れなくなったLOVOTを助けることができないなどのケースが出てきて、スタッフがご自宅に訪問して対応することもあり、他のユーザーとは異なる物理的なサポートが必要だと分かりました。機能面の開発・改良に加えてサービス面での充実化の重要性が浮き彫りになりました。

ロボットが人の生活を変える。その瞬間を間近で体験できたロボットが人の生活を変える。その瞬間を間近で体験できた

ロボットが人の生活を変える。
その瞬間を間近で体験できた

共同プロジェクトを通して、どんな気づきや学びがありましたか?

芳賀:LOVOTを通して「ロボットが人の生活を変える」その瞬間を、ご利用者やご家族、介護職員、GROOVE Xの方々と一緒に体感できたことは自分にとって大きかったです。「ロボットにはこんな可能性があるんだ!」と気づかされました。また、このプロジェクト自体、Lab、GROOVE X、現場を含めて数多くの人間が関わっていて、介護現場の期待も大きい案件です。プロジェクトを推進していく上で、現場と開発の間でしっかりと対応し、多くの介護現場でLOVOTが活用できるように、丁寧に理論づけや調査を進めていかなければいけないと感じています。

石田:ロボットやそれに関わるテクノロジーは常に最先端のものにアップデートされ、何かしらの役割や機能が明確化されています。一方、LOVOTは関わる人がその役割を決めることができる、ちょっと違った存在です。介護現場での検証を通じて、LOVOTがいつの間にかロボット以上の存在になっていることに気づかされました。

林:LOVOTの高齢者への効果・効能をどう定量化していくかはとても難しく、解くべき問題を同定するには介護現場を理解している専門家の知見が必須です。そういう意味で、Labと共同で現場実証を行う中で、教えていただかないと分からない、さまざまな介護現場のニーズや知見に触れることができたのは大きなプラスでした。また、現場への実装にあたって、メーカー試験とは別にLab独自のさまざまな試験を行うなど、責任を持って取り組んでいらっしゃる姿にとても感心しました。

プロジェクトの現状と今後の展望について教えてください。

林:LOVOTはすでに約60の介護施設に導入されており、今後は軽度の認知症の方を対象とした介護施設での実証実験に注力していく予定です。人の孤独を癒すメンタルヘルスケアとメンタルコンディショニングは重要な社会的課題です。それをLOVOTで解決できるにしても、私たちだけでは高齢者層にリーチするのに時間がかかってしまいます。Labと一緒に取り組ませていただくことで、LOVOTによって一人でも多くの高齢者の方の孤独を癒すことができたらと願っています。また、近年では一流アスリートなどが精神的安定を求めてアニマル・アシステッド・セラピー、通称ペットセラピーを利用するケースも増加していますが、ペットの代わりに遠征にも帯同できるLOVOTを導入して効果を上げたアメリカのアスリートチームもあります。人間と比べて気楽に向き合えるLOVOTは、あらゆる年齢層の人にポジティブな影響を及ぼすことができると確信しています。

芳賀:現在、2つの介護施設に導入済みで、別に10拠点でトライアル中です。また、在宅で6名が実証試験を行っています。それらの結果を踏まえて、高齢者でも使いやすいLOVOTの開発も進んでいます。今後、LOVOTは多くの介護現場で活躍できる、必要不可欠な存在になっていくはずです。そのため、介護サービスのご利用者がLOVOTと安全・安心に暮らせるように、操作の限定的な課題となるハードルをできる限り取り外すための改良を検討していきたいと思っています。また、高齢者と暮らしやすいということは、誰とでも暮らしやすいはずです。「高齢者を含め、誰とでも暮らしやすいLOVOT」を一緒に共同開発することで、孤独を癒すという課題を解決できる存在にしていきたいですね。

対談の内容は2021年9月時点のものになります。

ロボットが人の生活を変える。その瞬間を間近で体験できたロボットが人の生活を変える。その瞬間を間近で体験できた
在宅のご利用者にとってLOVOTの存在は日常生活の動作の能力向上につながる

現場の声

在宅のご利用者にとって、
LOVOTの存在は日常生活の
動作の能力向上につながる

  • 在宅老人ホーム新宿 宮川 剛
  • 在宅老人ホーム新宿

    宮川 剛

    管理者、介護福祉士

在宅の独居・日中独居のご利用者の中に、介護サービス利用時以外で、コミュニケーション機会があまり得られない方が多くいます。高齢のため、ペットを飼うことも困難で、代わりになり得るような存在がいたら良いのではないかと考えていました。
そんな折、LOVOTを用いたソリューションの共同開発をGROOVE XとSOMPOグループが行い、在宅で現場実証を実施するとの情報をLab から受けました。コミュニケーションや口や身体を動かす機会が増えるのなら、ご利用者にとって良いテクノロジーではないかと思い、早速実証に乗り出しました。

日常生活でコミュニケーションの機会が少ないご利用者が、実際にLOVOTと暮らすことで、生き生きした姿が見受けられました。気にかける存在が増え、ペットを飼っているような感覚でずっとLOVOTと話しをされていたからではないでしょうか。1ヶ月間暮らしていただいた後には、別れることが寂しそうな様子もうかがえました。

また、障害があり両肘を伸ばせないご利用者が、一生懸命手を伸ばしLOVOTの頭を撫でようとされる姿も見られました。訪問リハビリやデイサービスで行うような週に何度かの訓練よりも、日常、少量頻回の生活動作をする方が能力向上には効果的と言われており、その点でもLOVOTの存在は効果的だと感じました。LOVOTを可愛がりたいという意欲が、日常生活の動作の能力向上につながるのではないでしょうか。
期間限定の実証評価でしたが、ご利用者のコミュニケーションや口や身体を動かすことの機会が増加することが分かり、良い影響を与えていることを実感しました。

今後、ますますの改良を期待しています。私たちのお客様であるご利用者には、設置や操作にまだ困難な点があったからです。より使いやすく、より多くのご利用者に喜んでもらえるようなLOVOTを待っています。

開発企業の方からの
メッセージ

開発企業の方からのメッセージ

開発企業/GROOVE X 株式会社

Labを使うメリット

  • 在宅介護サービスご利用者の自宅を訪問し、実際の住居環境も確認しながらご利用者の声を直接聞くことができた。
  • 介護施設や在宅介護の現場をよく知る方々から貴重な知見をもらえた。

高齢者の方への効果・効能をどう定量化していくのか、この課題は難しく、それをできるのはやはり介護現場を分かっている専門家だけです。私たち開発企業は、解くべき問題が明確化すれば解くことができるのですが、解くべき問題をどう定義するか、そここそが難しく、介護の現場をよく知っているLabの方の知見に頼っています。共同プロジェクトの取り組みはこれからも続きますので、今後ともLabと一緒に取り組んでいきたいと思います。