事例
Case
独自のミストシャワーとドーム構造により、身体の露出を減らして入浴者のプライバシーに配慮しながら、サウナ効果で身体をしっかり温め、上質な入浴感を演出します。
入浴者が溺れる心配もなく、一人当たりの入浴時間を大幅に短縮するので、介助者にも優しい入浴装置です。
開発協力
美浴 NB2500
「美浴」の魅力をより多くのご利用者に楽しんでいただくため、まずは対象者・使用方法についてしっかりと要件定義を行い、開発企業の定義とLabの客観的データを組み合わせ、リクライニングチェアの座面と脚部分に緻密な修正・改良を行いました。コロナ禍で現場実証ができない中、オンラインでの確認・意見交換で細かい部分を詰めていった結果、ご利用者・介助者とも負担が減る新しい入浴のカタチが実現しました。
対 談
開発協力のストーリー
対談メンバー
(開発企業)
エア・ウォーター株式会社
中井 卓氏
医療カンパニー 医療事業部 医療機器推進部
美浴グループ グループリーダー
入社後、約8年間にわたって医療機関や福祉施設への医療・介護商材の提案・営業業務に携わる。2018年より現職。
(Lab担当者)
Future Care Lab in Japan
波野 優貴
Lab研究員(理学療法士)、教育研修部兼務
前職で理学療法士として病院・老人保健施設などでリハビリテーション業務に従事。SOMPOケア入社後、主に入居者の方の能力評価、ケア方法の提案などの業務に携わる。LabではR&D担当として勤務。
まず、介護用シャワー入浴装置「美浴」の開発のきっかけから教えてください。
中井:弊社は現在、多岐にわたる事業を展開していますが、もともと酸素や窒素といった産業ガスのメーカーであり、病院やモノづくりの現場に供給してきました。そのため医療機関向けの事業を数多く手がけ、患者様やスタッフの方により良い製品を提供することを目指しています。その一環で介護用シャワー入浴装置「美浴」シリーズも展開しています。本来、入浴はしっかり身体を温めて、心身ともにリラックスするものですが、身体が不自由な方や入院中の方が入浴の際に使用される入浴機器だと、それがなかなか難しいという声をよく聞きます。そこで、身体への負担を減らして、安全にリラックスして入浴していただきたいという思いから開発・改良を進めています。また、介助者にとっても入浴介助は負担の大きい業務のため、シャワー入浴によってその負担を軽減したいという思いも開発の背景にあります。今回、Future Care Lab in Japan(以下、Lab)と共同で取り組んだリクライニングチェアの改良も、介助者の負担軽減という要素が大きかったですね。
今回、「美浴」の改良に取り組んだきっかけについて聞かせてください。
波野:Labでは、介護現場における生産性向上と業務効率化を目指しています。入浴介助は介護スタッフにとって多くの時間を取られる業務で、効率化の観点から別の方法で代替できないか模索していました。快適なシャワーならご利用者も喜んで使っていただけて、介護者の負担も軽減できるのではと思い、いろいろ調査して、「美浴」にたどり着きました。
中井:最初にLabから問い合わせをもらった後、弊社のショールームで実際に体験していただきました。その時、介助者の業務負担を軽減して、働きやすい環境を作っていきたい、そのためにシャワー入浴の可能性を検討したいというお話しを聞き、その思いは私たちもまったく同じだったので、ぜひ、一緒に取り組みたいと思いました。
波野:「美浴」を選んだ決め手は、実際に入ってみて一番気持ち良かったからです。他メーカーのものも含めてさまざまなシャワー入浴装置を体験しましたが、「美浴」が一番お風呂に近く、それでいて新しい入浴感覚も味わえました。これなら高齢者の方にも喜んでもらえるだろうと、東京・神奈川のSOMPOケアの施設に実証評価のために導入したところ、ご利用者・介護者からとても評判が良く、業務も効率化できたため本格的に導入展開することになりました。ご利用者は特殊浴槽や普通のお風呂よりも良いという方もいらっしゃいましたし、介護スタッフは従来の2名介助から1名介助へ変更し、効率化できると好評でした。一方、現場から「ここをこうしたらもっとよくなるのでは」という具体的な意見をもらい、それをもとにした改良を視野に開発協力を開始しました。
製品改良の流れを具体的に聞かせてください。また、開発や現場実証で苦労した点を教えてください。
波野:現場からの具体的なニーズとして、「美浴」のリクライニングチェアの股間部分に空いている隙間が実際に使用してみると大きくて、穴の部分に片方のお尻が嵌ってしまうという指摘がありました。また、ご利用者が車いすからリクライニングチェアに移動する際、「美浴」の脚の部分のフレームが前にせり出ているため、立ち上がりにくいという課題も見出されました。このチェア部分の課題2点を克服することで、より多くのご利用者に心地よいお風呂体験を楽しんでもらいつつ、介護者の負担を軽減できると思いました。
中井:弊社でもそれらの点について要望が上がっていることは把握していました。そこへSOMPOケアのご利用者および介護スタッフのアンケートとその分析結果をLabからご提供いただき、ご利用者のADL(日常生活動作)向上と介護スタッフの負担軽減につながると確信し、チェア部分の改良に着手しました。座面と脚部分のサイズについてLabといろいろと検討しながら試作品を作りましたが、問題はコロナ禍で現場実証ができないということでした。そのような状況下でも、現場の声をヒアリングし、弊社にフィードバックしてもらい、ありがたかったです。その情報に基づいて出来上がった試作品をLabに送り、オンラインで実機を確認しながら意見交換して細かい部分を詰めていきました。
波野:私自身も通常は大阪勤務なので、東京出張の時以外はオンライン経由で細部を詰めていかなければならず、苦労しました。そのようなやり取りを半年ぐらい続け、試行錯誤しながら製品の仕様や対象となる要件定義、それと並行して使用方法のルールも決めていきました。
今回の共同プロジェクトを通して、どんな気づきや学びがあったか教えてください。
波野:今回、「美浴」を現場に実際に導入する中で課題が提示されたわけですが、機器を使っていく過程でどんな対象者が当てはまるのか、しっかりと要件定義を行うことが重要だと実感しました。介護用具・テクノロジーはそこが曖昧になりがちですが、あくまで道具なので、どういう人がどういう使い方をするのが最適なのかが明確でないと道具そのものの力が発揮できません。今回はエア・ウォーター株式会社の定義と、Lab内でのご利用者の身体状況に関する客観的指標を組み合わせる形で、中井さんたちが機器の修正・改良を行い、最終的によい製品をよい使い方でご利用者に提供できた達成感がありました。
中井:弊社でもお客様にご利用状況をお聞きしていますが、どうしても弊社で考えている製品コンセプトありきでヒアリングしてしまい、お客様が適切に活用いただけているか、把握できないことがあります。その点、Labだと「こういう人は難しい」「このくらい時間削減ができた」など具体的な分析結果を提供してくれて結果、弊社が考えていた以上に使える人もいれば、難しい人もいることが分かり、とても勉強になりました。また、打ち合わせの過程で、理学療法士の波野さんや介護福祉士の方、産業技術総合研究所の先生方など、普段は聞けない専門家の方々からのご意見・情報をフィードバックしてもらったことも大変役立ちました。
製品の現状と今後の展開について教えてください。
中井:「美浴」シリーズは、既に全国の福祉施設、医療機関に幅広く導入いただいています。今回、Labと共同で改良を行った「美浴」NB2500専用のリクライニングチェアは、Labにご協力いただいた成果が結実した製品ですので、入浴に困っている全国の方々に使っていただけるように、PR活動にも力を注いでいきたいと思っています。「美浴」シリーズを導入いただいているお客様にも、ご利用いただきたいです。入浴機器の市場ではシャワー式のシェアはまだ高いとは言えませんが、シャワー入浴装置「美浴」の導入によって、介護施設や医療機関のさまざまな課題を解決できると考えています。そういう意味で、今回のリクライニングチェアの改良は大きなステップになると感じています。
波野:こちらとしては、改良を行った専用のリクライニングチェアのリリース後、必要とする全国多くの介護施設に導入され活用してもらえると嬉しく思います。理学療法士は基本的に病院や介護施設でリハビリテーションをマンツーマンで行っていくことが仕事ですが、今回のプロジェクトを通して理学療法士の知見が製品開発の場でどのように活用できるのか、開発企業とどうやってマッチングしていくのか、とても良い経験になりました。これからも今回の経験を活かして、ご利用者・介護スタッフに喜ばれるモノづくりに関わっていけたら幸いです。
対談の内容は2021年9月時点のものになります。
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